セブ・コルドバの夜は更けて

すみれ会では毎週水曜日、午後1時よりマンダウエのJセンターモール2Fテラス(イミグレーションの外側)で交流会を行っております、参加は会員以外の方でも自由に参加できますので、お気軽にお越しください。

フィリピン銀行口座事情 シリーズ最終編

親族や友人・知人からの借金もできなくなったとき、貧困層の人々が頼る先は「ファイブ・シックス」と呼ばれる高利貸しです。


「ファイブ・シックス」と呼ばれているのは、5で割って6返すためです。たとえば1,000ペソ(2,200円)を借りた場合、5で割ると200ペソ(440円)になります、200ペソを6倍にした1,200ペソ(2,640円)が返済額になる、ということです。
ただし「ファイブ・シックス」といっても、返済期間はまちまちです。
一週間ほどで返済する約束を交わすこともあれば、一ヶ月後に返済する契約を交わすこともあります。もっとも契約といっても、なんらかの証文を交わすわけではありません,口約束のみが普通です。

午前中に借りて、その日の午後に全額返す場合も条件は同じです、短期返済であっても、一度借りた以上は20%分の利子を払わないといけません。
日本の高利貸しと大きく異なるのは、ファイブ・シックスでは返済を毎日行うということです。「Araw Araw(アラウ アラウ)」と呼ばれる日払いでの返済方式が基本です。
ファイブ・シックスを生業としているのは、圧倒的にインド人が多いことが知られています。

ターバンを巻いたインド人の二人組がバイクに乗ったり、自転車でサリサリストア(雑貨店)などを回っている光景を、フィリピンではよく目にします、彼らはファイブ・シックスを利用した人のもとへ、毎日集金に出かけているのです。

1,000ペソを借りた場合は1,200ペソを返済しないといけないため、30日で割ると1日あたりの返済額は40ペソ(88円)です、わずか40ペソを集金するために毎日足を運ぶのは効率が悪いと思えますが、彼らは丹念に実行しています。
こうした少額の集金業務が、ファイブ・シックスを支えています。
返済が滞ると利子が膨らみ、雪だるま式に借金が膨れあがることは、日本のヤミ金融と同じです、それだけに毎日の集金は、貧しい人々にとってありがたい面があることもたしかです。

たとえば、サリサリストアの商品の仕入れのためにファイブ・シックスで借金をした場合、毎日の売上げから少しずつ返済すればよいため、負担は軽くなります。
これが日本のように一ヶ月後に利子をつけて全額返済となると、ほとんどのフィリピン人は支払えなくて途方に暮れることでしょう。
売上げの一部を返済のために貯めておくことが、フィリピン人は苦手だからです、売上げが余れば、返済のことなど考えずに使ってしまいます、毎日集金してもらえるからこそ、はじめて返済できるわけです。


一ヶ月で返済すれば月利20%という計算になりますが、借りたその日に同日返済となるため、1,000ペソを借りても960ペソしか手元に来ません、つまり実質的な金利は20%を上回ります。
日少額ずつの返済のため、それほど損をしている感覚はないものの、実際にはかなりの高利です。
それでも審査が緩く、すぐにお金を用立ててくれるファイブ・シックスは、貧困層の世帯にとってはなくてはならない存在になっています。

借金する側からすれば、審査の緩さはありがたいものです、ファイブ・シックスの審査の基準は、仕事をしていることだけです、きちんと働いてさえいれば、日本円にして5千円程度までであれば、誰にでも貸し付けてくれるのがファイブシックスです。
ただし、日本と違って専業主婦に貸し付けるようなことは少額であってもしません、本人が仕事をしていることが唯一の条件です。それさえ満たしていれば、担保も保証人も一切必要ありません。
庶民の暮らしのなかにすっかり根を下ろしたファイブシックスは、いつのまにかフィリピンの伝統的な貸付法になっています、サリサリストアでツケで買い物をする際も、「ファイブ・シックス」の金利をつけるのが暗黙のルールになっています。


ファイブシックスを中心とした貸金業を営むインド人は、フィリピンでは「ボンバイ」と呼ばれています、ビサヤ語で「玉ねぎ」の意味です。ターバンを頭に巻いている姿からの連想かと思いきや、インド人は玉ねぎのような体臭をもっていることから、そう呼ばれているとのことです。


ファイブ・シックスと並んでボンバイが生業としているのは、家電製品などの貸し付けです、たとえば扇風機が欲しい人がいた場合、ボンバイは扇風機を安く仕入れて提供します、そのあと、毎日少額ずつの集金を行うのはファイブ・シックスと同じです。


扇風機を1,000ペソ(2,200円)で仕入れたとしたなら、毎日40ペソ(88円)の支払いを60日続けるような約束を取り付けます、一日あたり40ペソはたいした金額ではないものの、60日後の総支払額は2,400ペソ(5,280円)にもなります。
つまり、1,000ペソ(2,200円)の扇風機を2,400ペソ(5,280円)で購入したことと同じです。
貧困層の人々は、はじめに1,000ペソを用立てることができないため、このままでは永久に扇風機を買えません、ところが毎日少額の支払いと引き換えにボンバイが商品を提供してくれるため、はじめて念願の扇風機を手にできます。
たとえ定価の二倍から三倍の高い値段で買わされたとしても、今すぐに欲しかった家電製品を手に入れられる誘惑には、なかなか勝てません。


だったら毎日40ペソずつ貯めて、1,000ペソ貯まった時点で扇風機を買えばよいではないかと思うかもしれませんが、それができないのがフィリピン人です。
40ペソを60日払えば総額でいくらになるのかと言った計算さえ、ほとんどのフィリピン人はしようとしません。
結果的に高い買い物になりそうだとわかっていても、背に腹は代えられないとばかりに手を出してしまいます、ファイブシックスと家電製品の支払いの両方を利用する貧困層の家庭は、かなりの数に上ります。

高い利子を払わざるを得ないこうした仕組みは、フィリピンの貧困層にどっぷりと染みこんでいます。実はそのことが、フィリピンの貧しさの根源にもなっています。
貧しさの根源は高いコストを払わざるを得ないこと
ボンベイが貧困層の人々から見て、高額な家電製品を貧困層の人々でも払える少額ずつのローンとして貸し付ける手法は、フィリピン国内で広く行き渡っています。


代表的なのはトライシクルです。
「トライシクル」とは、フィリピンの交通を支えるサイドカー付のバイクのことです、タクシーよりも安いため、交通の足としてよく使われています。
フィリピンでは、働きたくても仕事がないために貧困から抜け出せない現実がありますが、トライシクルさえあればすぐに仕事を始められます。
しかし、トライシクルを購入するとなると8万(176,000円)から10万ペソ(22万円)はするため、貧困層の人々では手が出ません。
そこで広く利用されているのが、ボンベイと同じようにリースとして貸し付けてもらう手法です、トライシクルのリースを利用すれば、1日あたり150ペソ(330円)ほどの支払いを5年間続けることで、トライシクルを自分のものにできます。
トライシクルを使って仕事をすれば毎日300~500ペソ(660~1,100円)ほど稼げるため、支払いをしてもなんとか生活費を残すことができるのです、ガソリンや修理の代金も自己負担となるため実際にはかなり厳しいのですが、頑張れば手が届く範囲にあることから多くの人が利用しています。


でも冷静に計算してみると、5年後の総返済額は27万ペソ(60万弱)を超えています、トライシクルの元値が8万ペソであれば、50%近い年利になる計算です、日本のサラ金をはるかに上回る高金利です。
トライシクルがあれば仕事ができるため、生活の手段を得ることができます、しかも5年後には晴れてトライシクルのオーナーになれるとあれば、金利などかまっていられないと考えるのがフィリピン流です。
支払いを続けなければいけない5年の間に、事故や病気にかかって働けなくなるリスクなど、端から考えようとしません。

結果的に相場よりもはるかに高い値段で物を買わざるを得ない仕組みは、シャンプーや歯磨き粉などの日常品にまで拡大しています。
フィリピンの貧困層が多く暮らす街に行くと、シャンプーやリンスをボトルごと置いている店を見かけなくなります。ボトルごと置いても、高すぎて誰も買えないからです。
サリサリストアではシャンプーやリンス、歯磨き粉などが一回分ごとに小分けにされ、10mlが10ペソ(22円)ほどで売られています。
10ペソであれば買い求めやすいのはたしかですが、ボトルで買えば350mlで100~120ペソ(220~264円)ほどですむことを考えると、小分けにして買うことで3倍近い高値で買っていることになりますので明らかに損です!

貧困層の人たちはお金がないがために、定価よりもはるかに高い金額で必要なものを買わざるを得ないという矛盾が生じています。
フィリピンの貧困のスパイラルは、大枠を言えば地主制度や富裕層による搾取に原因がありますが、もっとマクロに目を移してみれば、貧しい人ほどなにかにつけ高いコストを払わなければいけないという仕組みそのものに問題の根源があります。
そのことは、「仕事がなくて稼げないから貧しい」という問題より、もっと直接的な貧困のスパイラルを生む原因になっています。
それだけに、貧困層の人々がまとまったお金を長期的に安く借りられる環境を整えることこそが、貧富の差を減らすことにつながると考えられています。


ドゥテルテ大統領がはじめたファイブシックス撲滅への取り組み
フィリピンの貧困層に入り込んだファイブ・シックスなどの高利貸しを追放するために、ドゥテルテ大統領は積極的に取り組んでいます。
すでに大統領選挙の演説の際にも、「彼ら(インド人の高利貸し)からファイブシックスを利用すると、さらに彼らから家電製品の購入を強要される」と述べ、インド人による高利貸しがフィリピンの貧しい庶民から搾取している現実に対して、嫌悪感をあらわにしていました。
さらに、大統領に当選した際にはファイブ・シックスを禁止することを公約として掲げ、「それでも(ファイブ・シックスを)続ける連中は強制送還されるだろう、もしやめなければ生き埋めにしてやる」と、ドゥテルテらしい強気の発言を残しています。


その公約は実行に移されました。
2017年1月、ドゥテルテ大統領はインド人の高利貸しグループに対して令状なしの逮捕命令を下しました、その理由についてアギレ司法長官は、「これらインド人は正規の認可を受けておらず、フィリピン人の貧しさに付け込んで高い利子を搾り取っており、もはや看過できない」としています。
フィリピンでは高利を課すこと自体は法律違反ではないものの、正規の届出をしないまま貸金業を営むことは違法です、インド人の高利貸しグループは、ほとんどが貸金業の届出をしていませんでした。
もっともこれは表向きの理由に過ぎず、ファイブ・シックスなどの高利貸しをフィリピンから撲滅することがほんとうの目的であることは明らかです。
ドゥテルテ大統領がファイブ・シックス撲滅へと動いたことは、フィリピンの貧困層にとってうれしいニュースになるかと思いきや、現実は違いました。


たとえば日本で闇金融を廃止するために、闇金業者を片っ端から令状なしで逮捕し、場合によっては国外追放にするといえば、ほとんどの闇金利用者は諸手をあげて歓迎することでしょう。
しかし、フィリピンでは様相が異なります。ファイブ・シックスがなくなるかもしれないと聞いて悲鳴を上げているのは、貧困層の人々です。
高利貸しという職業は同じでも、日本とフィリピンでは借り手と貸し手の関係がまったく異なります。フィリピンでは毎日取り立てに来るインド人に、こわもてというイメージはまったくありません。
ボンバイは誰もがフレンドリーで、貧困層の人々に親しまれています、お金がなくてその日の返済ができなかったとしても、強い態度で返せと迫られることはまずありません。
悪質な取り立てを行うボンバイがいたとすれば、貧困層の人々が一体となって抵抗するからです、そうなればインド人がその地で高利貸しを続けていくことなど、とてもできません。
それだけに、フィリピンではボンバイの方が平身低頭で、借り手に金を返してくれと頼みこむことがよくあります、日本の感覚からするとずいぶん甘い対応に感じられるかもしれませんが、そうせざるをえないフィリピン特有の事情もあります。
もし借り手を追い詰めてしまうと、最悪、殺されるリスクがつきまとうからです、実際のところ、フィリピンで殺される外国人の数でインド人は常に上位を占めています、そのほとんどは高利貸し業者です。

フィリピンでは金貸しは生命保険にすら入れません、殺されるリスクが高いからです。
金銭の貸し借りでのもめ事は、悲惨な結末を招きます、借り手を本気で怒らせるといつ殺されるかわからないだけに、ボンバイは誰もが借り手との間にフレンドリーな関係を築こうと努めています。
ドゥテルテ大統領が、インド人の高利貸しグループに対して令状なしの逮捕命令を発表した直後も、アルバイ州レガスピ市でファイブシックスの集金をしていたインド人が銃で撃たれて殺害されています。


麻薬撲滅戦争において、麻薬の売人や中毒者の殺人をドゥテルテ大統領が容認しているように見えるため、大統領の発言を受け、ボンバイの殺人も許されると勘違いした者による犯行と推測されています。
フィリピンで金を貸して返済を迫るということは、命がけの行為なのです。
すぐに金を用立ててくれるファイブ・シックスは、貧困層の人々にとってなくてはならない存在です、たとえ高利であったとしても、今すがらなければ地獄に落ちるとわかっていれば、誰でもその細い糸をたぐり寄せたくなるものです。
そのか細い糸さえ断ち切られては、貧困層の人々の暮らしは成り立ちません、フィリピン政府もそのあたりの事情はわかっています。


そこで、国家が後ろ盾となるマイクロファイナンスの取り組みをはじめています。
「マイクロファイナンス」とは、貧しい人々に向けて小口の融資を提供することで、貧困から脱出することを目指す金融サービスのことです。
少額の資金を無担保、なおかつ安い金利で貸し付けることにより、ファイブシックスのような高利貸し業者を排除することができます。
フィリピンでは今、貿易産業省が10億ペソ(約22億円)規模の官営マイクロ金融の利用ネットワーク拡大を図っています。
貸し出しと返済の窓口をどうするかが、官営マイクロ金融の長年の課題でした。
新たに窓口を全国に設ければ、その分余分な出費となり、肝心の貸し出す資金が減ってしまいます、この難題を解決するために、貿易産業省は斬新なプランを示しています。
質屋の業界団体であるフィリピン質屋商工会議所(CPPI)との提携交渉が、それです。

質屋であれば銀行をはじめとする、どの金融機関よりも多くの店舗が国内に存在します。
質屋は小口融資を必要としている人々であれば慣れ親しんだ場所であるため、官営マイクロ金融の窓口として最適です。質屋が窓口となれば、マイクロファイナンスが一気に広がる可能性があります。
質屋が窓口となって政府主導のもとにマイクロファイナンスが実施されれば、中小の事業体や貧困層の人々にとって大きな救いの手になることでしょう。
マイクロファイナンスがフィリピンの貧困の根源にある「高いコストを支払わなければならない環境」を改善するかもしれません。
麻薬撲滅戦争の過激さと暴言が目立つドゥテルテ大統領ですが、フィリピン社会に深く根を下ろした貧困の格差を解消するための取り組みは、次第に成果を上げつつあるように見受けられます。


                                終わり

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